……ところでKさんは、旅行に行くのにどんなものを持っていくのですか?
荷物の持ち方を教えてください。
僕の場合、リュックとショルダーバッグを持参するのが基本です。車イスにリュックを背負わせ、ショルダーバッグの紐を車イスの手に引っ掛けて、座席の内側に置くようにしています。
電動車イスの場合、リュックの中身は充電器と変圧器、バッテリーだけでほぼいっぱいになってしまうから、カメラも残念だけど置いていくし、お土産も買えない。下着は最低限着ている以外に二組だけ。とにかく、いろいろなものに応用が利くようなもの、つまり多目的な、最低限の旅支度を準備するのが要だと思います。迷ったら置いていく。しかし、今まで、現地で買い物をしなくてはならなかったことはないです。
……ショルダーバッグには、どんなものが入っているのですか?
カイロ、排泄した尿を取るビニール袋(もらった物は取っておく)、ハンカチ、ちり紙、歯ブラシ、耳掻き、脱脂綿(水に入ったとき)、正露丸、手帳、メモ書き1枚。ラジオ+時計、電池など。このショルダーバッグにパスポートや、お金も全財産入れています。
●カイロ
たくさん持って行く。水の中で冷えたり、心臓が苦しくなったりすると、心臓のあたりに置く。僕の場合は、そんなにひどくないけれど、友だちの多くが旅行しない理由は、心臓が苦しくなるのが怖くてという人が多いのだ。狭心症の人はニトログリセリンを持っているけれど、僕も持っている。同じように痛くなる。でも旅で死ねるなら本望だ。
●メモ書き一枚
ノートらしい物は持たない。パスポートの間にはさむ、それに必要不可欠な連絡先を書き込む。旅先の助っ人や重要な電話番号、リフトつきタクシーの電話番号など。
……車椅子の背中に背負わせるリュックには、何が入っているのですか?
ペンチとタイヤのスペア、充電器、変圧器、バッテリー、海水パンツなどでいっぱいになってしまいます。
●海水パンツ
僕はどこでも泳ぐ。ホテルに行かずにプールに行く。水に浮いているのがすごく好きだから。海を見たら泳ぎたいと思う。温泉も大好き。関節がやわらかくなるから。風呂も毎日入れたらいいと思う。奥さんが疲れない限り。僕の体重50キロを抱きかかえるのに、いつも男のボランティアが必要になる。水に浮いているときは、自分ひとりでいられるから。介助者が必要なのは入るときと出るときだけだ。波があると海は怖いから、誰かについてもらう。浅いところはやはりこわいな。
……Kさんは、独特な旅支度をいろいろ発明しているって聞いたんだけど。
旅に出て、自分自身をほめてやりたいときがよくあるんです。特急とかの狭い電車に乗るときに、折り畳み式のスロープや車のシートベルトの廃物利用のロープなどいろいろ工夫しているよ。とにかく、交通機関に関しては、最大のエネルギーを使って、いろんな乗る方法を開発しています。電動車イスの旅の場合、いろいろな用具を開発することによって、楽に旅行ができるようになると思っています。待ってちゃだめだ。
●折り畳み式スロープ
集団で旅行するときの折り畳み式のスロープ。僕自身が考案した優れ物です。僕が持てるのだから軽い。たたむと車イスのポケットにはいるし、便利。こうして自分に必要な用具を一つ一つ開発することも、電動車イスの人にとっては大切ではないかな。僕のスロープは2万五000円で売っています。
●ネジ回しつきペンチ
これは車イスの故障などの修理道具として、ペンチの先を細くしたネジまわしつきペンチ。自分が発明した優れ物だと思っている。車イスの旅には創意と工夫が必要だ。
●パンクのための予備のタイヤ
タイヤのパンクはこわい。僕は予備を持って行くが、自転車のタイヤのパンク修理用具でもいいと思う。
●車のシートベルト廃物利用のロープ
車イスに両側につけっぱなしにしている。僕の場合は車のシートベルトの廃物を活用している。絶対はずれないからだ。
浜辺で、砂に潜ったら引っ張ってもらう。
階段を下りるときに、後ろ向きに下りるが、後ろにひっくり返らないように、前方に引っ張ってもらい、下りていく。前輪の下と横にロープをつける。カタンカタンと降りて行く。電動車イスの重さは76キロ。僕の体重は50キロだから、122キロの塊が階段を下りていくことになる。落ちないように、1段1段下りていく。後ろにひっくり返る可能性もあるから、後ろにも人についてもらうようにしているんだ。今までの経験から、これが一番楽だと思う。
階段上るときは、介助者に迷惑をかけるから遠まわりしても、階段を上ることはしない。7人のサポートがあれば上ることもできるが、怪我したり、腰を痛めたりするから。遠まわりしても上りの階段は利用しないようにしているんだ。
尾瀬で水芭蕉を見たときにこのロープでおぶってもらった。手よりもロープでおぶってもらったほうが安全だし、介助者の力があまりいらない。ロープというものは、つくづく便利なものだなと思うよ。
ロープは乗り物に乗るときも役立つ。特に特急は、通路は70センチしか幅がないので、横から介助すると、どうしても狭いので、ロープを使って、前と後ろでひっぱってもらうとか。それによって楽に乗り降りができる。地方の列車は、昔2段あった段差が今1段になっており、50センチくらい段差があることもある。踊り子号がそう。日本の鉄道ではあたり前になっている。この50センチをクリアーするには、ロープをうまく利用するのがコツだ。ロープを活用することで、旅の可能性が広がると思うよ。
……旅先でお風呂に入るって、トイレと共に悩みの種だと思うのだけれど、お風呂の入り方は、どんなふうにしていますか?
僕の場合、ホテルでは、お風呂の浴槽ぎりぎりまで電動車イスで行ってしまいます。車イスでお風呂に近づけないホテルの時は、フロントの人を呼んで、お風呂を手伝ってもらっている。
……見ず知らずの人に入浴を助けてもらうのは、勇気がいりますよね。若い人や女の人の場合、なかなか難しいのでは? 私なら考えてしまう。
僕の場合は、浴槽ぎりぎりまで車イスで入れるときは、介助者ひとりにサポートされるだけで入れます。車イスで入れるということは、通路が通れて、中のスペースがある程度あるということなんだけど。シャワーだけで良ければ、普通の椅子を置いておいて、乗り換えてシャワーを浴びることもできます。
お風呂に入るときには、介助者にかかえてもらうのだけれど、先ほどのロープを僕の体に巻きつけてもらったほうが、介助者の力が出るし安全だと思う。また、ロープは部屋の中では物干しの代わりになるし。
●ビニールポンチョ
車イスにビニールまたはポンチョを掛けて、シャワーを浴びることもできます。浴槽から出るときに、車イスが濡れてしまうから、ポンチョを車イスにかけて、その上に濡れた体を乗せてもいいし。プールから出たときもそうだ。
このポンチョは温泉の風呂のはしごをするときは、とても役立っている。風呂から風呂に渡り歩くときは、裸の上にこれをかぶって次のお風呂に介助者に連れていってもらう。それから体が冷えるときにもこれを上から被ってしまえば暖かいので、かっぱとしてだけでなく役立っている。
このビニールポンチョは雨がっぱとしてもとても役立つ。普通のスポーツ用品店で売っているポンチョだ。
雨を恐れているのをクリアーするのは勇気がいるけれど、雨が怖くなくなったらどこへでも出て行けると思う。
……トイレの心配で旅に出られない障害者の人も多いのでは?
排泄なんてこわくない、と僕も言いたい!
旅に出たら、僕は排尿は飛行機の座席でもします。暗くなくてもOK.毛布でカバーしてビニール袋に取ります。固めず、誰かにトイレに捨てにいってもらいます。だからいいビニール袋は持って行きます。いいといっても、スーパーで安売りしているやつだけど。排便は僕の場合はしないで我慢できる。1週間に2回ぐらいしかしない。ふだんもそう。おなかも痛くならない。下剤を飲まないでも出るから、健康の印だと思うよ。そういう意味では旅に向いていると思います。
でも下痢をしたときだけは怖い。この世で一番怖いのは下痢だからだ。だから正露丸はいつも持ち歩きます。正露丸は神様! 危ない時、下痢がちゃんと止まるから。
一般的に筋ジスの人の場合、あまり食べないと思います。動きまわらないから小食。少量でおいしいものを食べたい。あまり食べないから出ない。食べるのが楽しみの人はたぶんいないのではないかな?
……トイレに関しての発明はないんですか?
ポータブルのトイレがあるとかなり救われる人が出ると思う。お風呂で腰掛ける椅子の真ん中の穴を大きくして、内側に袋をぶら下げる。ポンチョを着て、うまく穴に便をいれる。背中もたれのある椅子があれば完璧。
下痢の問題を考えると、ポータブルのトイレがあるといいよね。音楽をかけて用を足す。その商品の名前は、『旅の友』、『こわがらーず』、『げりなーし』、『くだらーず』なんてのはどう? 待ち時間を駅でも使えるし、心配がないのでは?
……その時、目隠しできるテントがあるといいわね
……ホテルの部屋が和室だった場合、車イスでは戸惑うでしょ? どうしています?
畳の部屋でも、もし重度で、畳に座れない場合は、電動車椅子でそのまま入ってしまってもいいと僕は思うよ。理解ある旅館の方はいいと言うしね。つまり日本人にとって、アメリカ人が靴のまま部屋の中に入ってくるのが異様に思えるように、これは一種の慣れだと思う。だから自分にとって一番いい状態、電動車イスに座っているのが一番いい状態だったら、そのまま畳に入って行こうと思うのです。そこまで割りきっていかないと。
……私の住んでいる八ヶ岳の大泉村に、障害を持つ人が泊まれるペンションがあるのだけれど、そこでは、車イスの車輪用のスリッパ、つまりカバーを用意して、室内に入れていましたね。畳ではなかったけれど、参考になるのでは?
いわゆる世間の常識にとらわれていては、電動車イスの人はなかなか、好きなところに行けないんじゃないか。そういう意味で常識を一つ一つ破っていくということが電動車イスの人の生活範囲を拡大するための、コツではないかと僕は思っています。その場合、自分の気持ちの持ち方をしっかりしていないと。
……最後に一言、障害を持っているけど、旅立ちたい人にKさんからのメッセージをどうぞ!
友人にMさん(32歳)という人がいるんです。彼の障害は重度の脳性麻痺です。彼とはオーストラリアへ行ったんだけど、M君は僕のまわりでは旅して一番変わった人だと思う。彼は、重度脳性麻痺で公務員試験を5回受けたけれど相手にしてもらえなかった。言語障害がけっこうあって聞き取りにくい。それが海外へ行って、自分の喋る英語が通じたから大変。それが大きな喜びとなって、彼の人生はガラリと代わってしまった。今は、自分で旅を企画してはハワイやオーストラリア、グアムなどに行っているよ。僕のまわりには、彼のように旅行に出て変わった人がたくさんいる。30年間外出しなかったとか、50年間出られなかった人とか、海外旅行で次々にかわっていった。だから、勇気を出して電動車イスで旅にでかけよう!
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